本記事は、European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations (EFPIA)の Digital Healthを日本語に翻訳編集したものです。正式言語は英語であり、その内容およびその解釈については英語を優先します。原文は、Digital Health(www.efpia.eu)をご参照ください。

デジタルヘルス

デジタルテクノロジーによって私たちの生活は一変しました。エンターテイメントやコミュニケーションから旅行や銀行取引に至るまで、デジタルディスラプション(デジタル技術がもたらす破壊的変革)によって、効率性、透明性、利便性がもたらされました。そして、このデータ主導の革命により、ヘルスケアの形態も変わり始めています。デジタルヘルスの可能性を実現することで、患者さんを中心、アウトカムを重視した持続可能なヘルスケアへの移行を、欧州で加速させることができます。

パンデミックへの世界の対応は、医療システムおよび国家間での信頼性の高いデータ交換の重要性を浮き彫りにしました。これにより、遠隔医療の活用が促進され、研究や試験の範囲を明確に定め、ヘルスケアソリューションを普及させるための大規模データセット解析のニーズが加速しました。

私たちは今日、新たな治療やテクノロジーへのアクセスの提供に注力しています。医療イノベーションのさらなる促進および、世界的に競争力の高い欧州での持続可能なグローバルヘルスケアシステム確立のため、私たちは今こそ力を合わせてこれを実現しなければなりません。

デジタルヘルスとは?

デジタルヘルスとは、Eヘルス(情報テクノロジーを有効活用したヘルスケア)、Mヘルス(スマートフォンなどの携帯通信機器を活用したヘルスケア)、遠隔医療など、様々な用語を包含する広義語であり、電子カルテや遠隔モニタリング、接続デバイス、デジタル医療など、あらゆるものをとらえたものです。それは、情報技術、ビッグデータ、AI、および機械学習を取り入れて患者さんのアウトカムに関するデータを収集、共有、分析、使用することで、医療従事者が情報に基づく意思決定を行い、ケアを向上させることができるようにするものです。この患者さんを中心としたデジタルディスラプションによって、事業の運営方法やサービスの開発提供方法が急速に変化しており、研究型産業や患者、医療従事者、医療機関、規制当局など、重要な関係者間の関係が再構築されています。



未来は今ここに

これはサイエンス・フィクションではありません。欧州全域の病院や自宅で、ヘルスケアの形を変えるツールやテクノロジーの利用が急速に普及しています。デジタルトランスフォーメーションはすでに身近なものとなっているのです。

  • 最適化された診断:放射線科では人工知能(AI)を使用し診断を最適化しています
  • モニタリングの強化:「スマート」な吸入器が喘息患者さんの薬剤使用をモニタリングしています
  • リモートエンゲージメント:専門医が患者さんへの助言や専門医間のトレーニングをリモートで行っています
  • データ接続:個々の患者さんのケア向上のため、患者さんの医療情報が診療所間で安全に共有されています
  • 継続的なフィードバック:医療介入によってもたらされる価値を実臨床下で評価するため、アウトカムのデータが蓄積されています
  • 技術を駆使した医療提供:危機の際にはドローン技術を使用して遠隔地へ医薬品を提供しています
  • 効率向上:グローバルサプライチェーンを通じて効率化し、医薬品の製造と患者さんへの配送を迅速化するためのブロックチェーン技術(情報を記録するデータベース技術)が注目されています
  • 画期的研究:安全で有効な新薬をより迅速に開発するため、世界中から得られた臨床試験データが国境を超えて共有されています

これらはほんの一部の例です。研究者たちは、ブロックチェーン技術によってどのように情報セキュリティ強化することができるか、遠隔モニタリングによってどのように患者さんのアウトカムを向上させサービスを効率化することができるか、そして人々はどのようにすれば自分の医療データを容易かつ確実に管理できるかを探求しています。

医療のエコシステムの変化

デジタル革命は、現状打破に挑むものです。これには、すべての関係者の新たな発想と、既存のプレーヤーおよび新規参入者の協調が必要です。製薬業界とテクノロジー企業は、ともに連携して取り組むことで、医療アウトカムを向上させ、治療法を個別化し、ケアの連携を実現することができます。また、医療サービスを入院から外来、さらには在宅医療へと移行させ、これをより多くの病状に適用することができます。これにより、患者さんの安全を確保するという私たちのミッションを念頭に置きながら、共通の目標である患者さんの満足度の向上とデータに基づく臨床判断の支援を実現することができます。

欧州製薬団体連合会(EFPIA)の新委員長であるフォン・デア・ライエンの意欲的な計画は、「欧州が安全で倫理的な境界線の範囲内で、デジタル時代から得られる機会をつかむことにさらに尽力する」ことに焦点を当てています。 EFPIAは、データエコノミーの価値を明確化する欧州連合(EU)の政策環境づくりに向けた欧州委員会の尽力を称賛します。また、欧州保健データスペース(European Health Data Space)の創設を含む欧州データ戦略(European Strategy for Data)と、倫理的で信頼できるAIの開発および導入を支援しつつ欧州のAIのイノベーション能力を促進する、という欧州としてのAIへのアプローチを推進する欧州委員会の取り組みを支援します。この重要な取り組みを進めることで、すべてのステークホルダーがエビデンスに基づき協議のもとで策定された枠組みから恩恵を受けるでしょう。

EFPIAのビジョン

EFPIAは、ヘルスケアにおけるデジタル革命の積極的支援に取り組んでおり、あらゆる医療関係者と連携して新たな働き方を定義し、最終的に公衆衛生を向上させる喫緊のニーズに対する解決策を追求しています。

私たちは、医療システムのあらゆる側面の「デジタル対応」を実現する必要があります。これは、政策立案者や規制当局、医療従事者と連携して、私たちの前途にある機会を活用するために必要なインフラ、データセキュリティ枠組み、考え方を確立する、ということです。


デジタルヘルストランスフォーメーションに向けたEFPIAのビジョンは以下のとおりです。

  • イノベーションの実現:欧州のデジタルアジェンダが医薬品のイノベーションを支援するものにします
  • ステークホルダーによる受け入れの確保:データ/デジタル機会の規制当局の受け入れを支援します
  • 有用性の強化:現在のビジネスモデルの有用性を最適化し向上させます
  • 混乱の予測:デジタルディスラプションがビジネスモデルや患者さん、医療従事者、その他の関係者間の関係に及ぼす影響に備えます
  • 常に患者さんを中心に:デジタルソリューションにより患者さんに利益をもたらします
  • ヘルスケアの加速:デジタルテクノロジーを使用し医薬品の開発を加速させます
  • 連携の推進:官民連携を促進して相互運用性の障壁または課題に対する解決策を見出し、正当な懸念(プライバシー)に対処し、デジタルトランスフォーメーションによりすべての人のケア向上(患者さんのアウトカム)を目指すものにします

EFPIAの活動内容

デジタルヘルス分野におけるEFPIAの戦略的目標は、患者さんの利益のために欧州のヘルスケアトランスフォーメーションを支援し、デジタルの進化によって有効なデータに基づく医療システムへの移行を可能にし、欧州の競争力を維持することです。




このトランスフォーメーションを可能にするため、EFPIAは、欧州員会のデジタルヘルスアジェンダを補完し、変化を推進する以下の事項に対処することを提案します。

医療データ共有への社会的信頼:欧州では、医療データの価値に対する国民の理解を深め、データの収集や利用方法への信頼度を高めるための医療データ提携が必要です。欧州患者フォーラム(European Patients Forum)は、Data Saves Livesという重要な取り組みにおいて主導的な役割を担っています。このプラットフォームは、医療データの責任ある使用や社会的理解を促進するための主要なステークホルダーの対話を可能とし、データ共有に対する姿勢の変化に貢献します。

データ使用により患者さんにベネフィット/リスクやケアの価値に関するフィードバックを提供:新たなテクノロジーが社会に可能な限り十分な利益をもたらすことができるようにするうえで基本となる1つの必須条件は、医療データへのアクセスです。医療システムでは、データの価値は認識されていますが、信頼に基づいた摩擦のない医療データの流れを作り出すためには、いくつかの課題に対処することが必要です。将来的には、革新的医薬品イニシアティブ(IMI)の欧州ヘルスデータ・エビデンスネットワーク(European Health Data and Evidence Network, EHDEN)プロジェクトに基づくデータ接続ネットワークの構築が見込まれています。これによって約1億の電子カルテが統合され、リアルワールドデータの威力が解き放たれます。

患者さんが自身のデータを所有できるよう患者力を強化:医療システムの情報、特に患者報告アウトカムデータは、連携を強化する必要があります。これにより、ステークホルダーがこのデータを有効に活用できるようになります。ヘルスアウトカム観測(Health Outcomes Observatories)に関するIMIプロジェクトであるH20では、患者団体と連携し、ICHOMおよびIMI BD4BOによって定義されたアウトカムの標準に基づいて、患者報告アウトカムデータを持続可能な方法で収集して標準化し、ヘルスアウトカムを透明化します。目的は、患者/医師のリアルタイムでのデータアクセスを可能にすること、データによって価値に基づく医療(Value Based Healthcare)を実現すること、そして研究と投資を推進することです。デジタルリテラシーの向上に伴い患者力が強化されます。

デジタルテクノロジー - デジタルイノベーションの活用:AIの可能性によって、将来のヘルスケアトランスフォーメーションに新たな機会が生まれ、ヘルスケアの提供が向上され、効率も大幅に高まることで医療費削減をもたらします。AIの可能性の活用は、ヘルスケアの提供を向上させ、患者さんと社会の両方に利益をもたらすという利点があります。しかし、ヘルスケアにおける新たな分野として不確実性もあり、データへのアクセスやデータガバナンス、データ使用の規制、透明性、説明責任、倫理的配慮など、多くの課題があります。

次のステップは?デジタルエコシステムの実現

EFPIAと各企業は、デジタルツールの試験運用を通じてその可能性を探り、ユーザー側の受容を促進する取り組みを進めています。この過程において、EFPIAは他者と協力しデータの質を標準化し、デジタルテクノロジーによって患者さんが健康や医薬品、疾患の情報に基づいて行動を起こせるようにする方法を改めて検討しています。

EFPIAは、デジタルヘルスは効率的な患者さん中心の医療システムを構築するうえで必要な変化を加速させる触媒であると考えています。今こそEUが参画しデジタルヘルスケアを実現する時です!すべきことはまだ山積していますが、挑戦する準備は整っています。